アーティスト・インタビュー② 緒方祐香

那覇で始まったクリエイションもいよいよ札幌の地でショウイングを迎えます。今回の国際ダンス・イン・レジデンスに参加しているアーティスト4人にショート・インタビューを行います。
ひとり目は、佐賀・福岡を拠点にダンサー・振付家として活動している緒方祐香さん(通称:ゆっぴ)。コンテンポラリーダンスだけでなく、いろいろな踊りを愛し、最近では神楽の振付にも挑戦しているゆっぴに話を聞きました。

アーティスト・インタビュー② 緒方祐香(ゆっぴ)
聞き手:水野立子
編集:川口智子

――まず、神楽のことを聞きたいと思っているのだけど、振付の話が来たときに戸惑いはなかった?

まったくなかった! 実は、土着的な踊りがとても好きなんです。
これまでヒップホップ、ジャズ、バレエといろんなジャンルのダンスをやってきました。体を使うというカッコよさに飛び付いて、ダンスとつけば何でも挑戦してきた。その中で、土着的な踊りと出会うきっかけになったのは、ニューヨークに留学している時に、日本の民舞ばかりを踊る団体に入ったんです。沖縄の「安里屋ユンタ」、山形の「山笠音頭」、福岡の「黒田節」など、北から南までいろんな民舞を踊りました。日本の文化を紹介する機会、学校を回ったり、ジャパン・デーで踊ったりと、踊る機会もたくさんありました。


(那覇での琉球舞踊レクチャーの様子)

――それはニューヨークにダンスを習いに行くっていう感覚からすると真逆だよね。そのころ20代でコンテンポラリーダンスをやっている人たちの中では珍しかったんじゃない? 日本の土着的なものとか、能や歌舞伎、ましてや伝統芸能とか神道に、興味を持つ人は少なかったのでは?

そうかもしれない。でも、私の場合は、民舞を踊るのがとても楽しかった。
それで、自分でもいろいろな神楽や伝統芸能の動画をYou Tubeで見たりしてたから、神楽の振付の話をいただいたときに、「やった! 引き寄せた!」って思ったんです。

――ゆっぴにとっては、民舞や神楽は特別な何かという存在なのかな? 他のダンス、たとえばヒップホップやジャズダンスとは別次元のものなのかな?

最初は特別な感じはなかったけど、だんだんと知っていくうちに面白味を見つけるようになった。やっぱり民舞や神楽にはDNAを感じる瞬間がある。それぞれの地域性だったり、地域をつなぐ文化の流れや貿易のルートが見えてくることがあるんです。たとえば、九州では特に韓国の色が強い。衣装の色にしても五行の色が出てくることが多いし、そういう繋がりのようなことが見えるのはとてもおもしろい。

――そうか、沖縄はどうだった?

まだわからないことのほうが多い。もっと中国の文化の影響があると思ってたけれど、今回習ったのは、琉球舞踊だから能の影響がとても多い。でも「踊りが好き」という文化、たとえば、琉球舞踊でも「(喜びを)捏ねる」っていう動きがあって、そのひとつの動きを庶民が「カチャーシー」にしちゃう、パラパラみたいな存在に。そういう風に踊りが身近なものになっていく、そのことがとても面白いと思います。

――神楽をつくるときは、保存することをまず意識しているの? それとも現代に語り継がれる為に変えていかなきゃいけないと思っている?

それはどっちでもありだと思う。たしかに、無形文化遺産になることで変えられなくなっちゃうという現実はあります。と同時に、やることが雑になって衰退してしまうのは望ましいことではないと思います。でも、その時その時の人の身体に合うとか、その時代の雰囲気があるとか、そういうことはおもしろい。土着的な踊りは、人から人へと受け継がれていくから、その間に踊りが変わっていくことは自然なことじゃないかな。私が振付けた神楽も、もともとダンサーではない人が踊ることを想定してつくっていて、それでも踊る人たちによって自分の想定を超えたおもしろさが生まれる。そうやって、自分の振付にフィードバックがされていくことも面白い。

――もともと神楽がないところに、新しく神楽をつくりたいという神主さんの想いはどこからきていたのだろうね?

もともと炭鉱があった町だから、町からどんどん人がいなくなって、寂れてしまった。そんな時に、神社に人が集まるということが大事なんじゃないかと考えたそうです。昔は人が神社に集まってきたから、その地域にどういう人が生きていて、何をしているかがわかっていた。横のつながりがあったんですね。そういうことが現代でも必要だと考えて、踊りがあることで人が集まってくるんじゃないかな、と。もちろん、神社に人が集まることで、神様も喜ぶし、それから、子どもたちに神社の由来を知らせることもできる。だから、儀式的な神楽と、ミュージカルのようなかたちで物語を見せるものと両方あります。

――琉球王国の踊り奉行たちが、踊りで国際交流をしたり、終戦後の捕虜キャンプで歌と踊りの会をして捕虜生活を乗り切った、という美術館の前田さんがしてくれた話を思い出すね。それは、踊りや芸能の根源的なことだと思います。コミュニティダンスの原点でもあるね。そういう体験をする前と後では変化があった?

すごく変わりました。もともと踊るのが好きだから踊ってきたけれど、もう少しダンスの力や可能性を信じるようになりました。それから身体をつかってやることへの期待。

――神聖な踊りを神社で奉納している時はどういう視点をもって振付するの?

お客さんに良く見てもらおう、とは思わない反面、お客さんに喜んでもらうことも考えています。神主さんも私たちも大事にしているのが「神人和楽」という言葉。神様も人も同ように和み、楽しむ。

――そうか。舞台芸術と一緒だね。いいダンスは観ている人が、いつの間にか踊りが乗り移って自分が踊っているように感じられるよね。それと同じような感覚をゆっぴは神楽を通して感じているんだね。

本当、まさにそうなんです。なので今回のプロジェクトでも重なるテーマがいくつもあるなあと感じているところなんです。