アーティスト・インタビュー① Choi Chi Wei

きらびやかな衣裳、隈取りのメイク、派手な音楽、アクロバットに歌。「京劇」に持つイメージ。実は、中国オペラには300種類以上の地方劇があります。西太后が愛してその名を広め庶民の芸能となったもの、それが北京を中心に広まった「京劇」です。台湾戯劇院で京劇俳優の修行を積み、京劇の中でもアクロバットを得意とするWeiさん。そのアクロバットをつかって「欽ちゃんの仮装大賞」に出演し、特別賞をもらったこともあります。擬闘や、映画・ドラマのスタントマンとしても活動するWeiさんに京劇の魅力と今回のクリエイションへの感想を聞きました。

アーティスト・インタビュー② Choi Chi Wei/崴之蔡
聞き手:水野立子
通訳・翻訳:Hugh Cho, 川口智子


photo:M.Takahashi

――Weiさんはどうして京劇俳優になったの?

実は、偶然なんです。小さい頃からカンフーが好きだったし、演技をしたり身体を動かすことが好きでした。それで、アクロバット俳優になりたいと思ったのに、間違えて京劇俳優になる学校の試験を受けてしまいました。たくさんのことを学んだので、後悔はありませんが。

――えー!そうかー間違えたのか。笑 8年間もの厳しい訓練によく耐えられたね。 映画の『覇王別記』の冒頭のシーンに出てくるような厳しい訓練だったんでしょう?

そうです。まさにあの映画に出てくるような厳しい訓練でした。でも、自分自身に挑戦したいと思いました。学校は本当に厳しく、寝起き・食も共にして、家にも帰ることができないのです。ですから、学校を卒業するまで続けること自体がとても大変なことで、その途中で辞めてしまう人も沢山います。厳しい訓練を最後までやり遂げ、プロフェッショナルな京劇俳優になること、それを目標にして頑張りました。

――WEIさんの演技をみていると、舞台の立ち方、上半身のきれいな立ち方がクラシックバレエの基本姿勢と共通しているのかなと思うのですが、基本姿勢はどうなっているのですか?

上半身の姿勢は、演じる役の身分によって異なります。たとえば武将の役なんかは、上半身を張ります。こういう感じです。

――なるほど。役によって型があるのですね。私にも教えてください!

では、やってみましょう。 基本の武将の型です。

ー 腿が苦しいーー。女性の動きは?

たとえば孫悟空の場合は、姿勢が全然違うんです。こうです。

ー すごい猿の顔だーー 

やってみましょう。
もっと胸を丸めて、そうです! 手はもっとリラックスさせて、、、目線はこっち! 
猿の演技の手の位置などは、地域によって異なるのです。私は北方のスタイルの型を勉強しました。

――これは、「演じる」っていう感覚なのかな? それとも舞踏のように「そのものになる」っていう感じなのかな?

それは人によって違います。演じる人もいるし、そのものになる人もいるし、その度合いを混ぜる人もいます。でも、それは自由に決めていいわけではなくて、修行中の人は演じることに専念します。修行を積んで技術を一人前にマスターした後、師傅(先生)になった役者は、自身で表現の方法を決めることができるようになるのです。

――芸の道の基本ですね。

京劇には、本当に沢山の要素があります。それが京劇の魅力です。演技、踊り、歌、アクロバット。それから古典文学、刺繍、歴史、物語など。そういったものがすべて合わさって総合的に上演されるのが京劇ですから、一流の京劇役者はその演技の幅が求められるわけです。

――京劇という少し前の時代につくられた芸能を、演じ続けているということに、どういう意義を感じていますか?

京劇について知らない人はどんどん増えています。ですから、こういう芸能があるということを広め、若い世代に伝えることは大事だと思っています。世界はどんどん変わっていくので、忘れられていく中国の文化・歴史・物語を残していく、伝えていくことも大事です。中国の古い歴史を知るなかで、語られていることと事実とが違うと気づくこともあります。このような体験は、何が正しくて、何が間違っているのか、ということを考える機会にもなります。


photo:M.Takahashi

――京劇にも新作や、新しい試みを行う演目もあるようですが、、Weiさん自身が今回のようにコンテンポラリーダンスの作品に参加する機会はこれまでもあったのですか?

いいえ。初めてです。ですから、コンテンポラリーダンスがどういうもので、どういう風に作品が作られて、どういう哲学があって、ということを今回初めて経験しています。京劇にはいろんな決まりごとがあって、それを守って上演することが求められています。でも、今回の作品制作では、ルールがない場面が沢山あります。とまどいもありますが、そのことが面白く思える瞬間もあるので、何ができるか探っているところです。京劇の上演を新しいものにしていくことは簡単なことではないけれども、時間をかけて何か変化をもたらすきっかけになればと思います。


photo:M.Takahashi