備瀬から札幌へ 10/4

文:川口智子
写真:水野立子

札幌の朝。
おはようございます、通訳担当の川口智子です。

9月16日~那覇(沖縄)、9月24日~備瀬(沖縄)、そして、10月1日から北海道は札幌に来ています。今週末、沖縄から始まった今回の滞在制作の作品発表を行います。

さて、備瀬の一週間。
アーティスト4人は文字通り朝から晩まで制作に取り組んでいたようです。
“ようです”というのは、私は備瀬には同行しなかったのです。昨日、札幌で10日ぶりにアーティストたちと再会し、備瀬での話を聞きました。

ひとくちに「制作」と言っても、やり方はそのプロダクション・作品ごとに違いますが、備瀬での一週間、彼らは「話す」ことにかなりの時間をかけました。稽古場だけではなく、寝起き・食をともにする宿でも。
で、この「話す」が、一筋縄ではいかない。
日本語、広東語、時には北京語、そして英語を駆使して、かろうじて話すのです。

自分の知っている言語とは違うことばを話す人というのは恐怖です。
自分の言いたいことが伝わらない、よりも、自分の目の前にいる人の言いたいことがわからない、という恐怖。
その人がいること、そしてその人が何かを言っていることはわかる。
でも、何かをお願いされているのか、尋ねられているのか、それとも訴えられているのか、それすらわからない。
それは、自分が理解していると思っていることばを話す人との間でもよくあることです。

那覇・備瀬の滞在で、アーティストたちが直面したこの「わからなさ」はことばだけでなく、香港・台湾・東京・福岡というそれぞれの出自の違い、現代舞踊・京劇・芸能というそれぞれのアーティストとしての取り組みの違い、これまでの訓練方法や経験の違い。そういったもののひとつひとつが複雑に絡みあって4人のアーティストの「わからないエネルギー」が醸成されていった。

それは、「わかった/わかる」という瞬間の運動のシンプルな切れ味とは違う、「わからない」、「ますますわからない」という複雑に魅力的なエネルギー。

それは、今回の作品のテーマとしてBoさんが持ち込んだ京劇『三岔口』の「暗闇で死闘を繰り広げる」(そして、その上演は明るい中で、常に焦点をずらして演じられる)場面のそのエネルギーと寄り添っているように思われます。

さあ、札幌での制作、滞在も残りが少なくなってきました。土曜日には『三岔口-SAMCHAHOU-』ショーイングです。

「伝統と現代」「香港と日本」。
その出会いから生まれた、Boさん、Wei C FU、れもんさん、ゆっぴ、4人のアーティストが「串刺し」になる瞬間・エネルギー、そんな上演が見たい。いよいよラスト・スパートです。

(写真は札幌・パトスでの稽古風景)